【文系女子が教える化学】マトリックスの世界?体内ボルタ電池(オリンパス カプセル内視鏡特許から)

文系女子が教える化学

こんにちは。
映画「マトリックス」の衝撃的なシーンといえば、人間がずらりと並んで電力源にされている「人間電池工場」シーンですよね。
今回読んだのはそんなマトリックスを思い出す「体内発電」の特許でした。
アイデアとしてとても面白いと感じましたので、その内容を紹介します!

特許第5276184号

書誌的事項

発明の名称:電源システム及び、その電源システムを搭載する医療用カプセル装置
出願人:オリンパス株式会社

発明の名称にある「医療用カプセル装置」の代表的なものは「カプセル内視鏡」で、これはいわゆる「胃カメラ」のような用途で使われますが、大きさは約2、3センチとかなり小さいです。これなら胃カメラと違って飲むのもツラくなさそうですね。
今回の特許は、そのカプセル内視鏡を動かすのに必要な電力を「体内ボルタ電池」で発電するというものです。

ボルタ電池とは?

ボルタ電池とはイタリアの物理学者、ボルタが発明した電池で、現在使われている電池の原型ともいうべきものです。しくみは以下のように、希硫酸に亜鉛版と銅板を浸して、導線でつないだものです。

出典:http://sekatsu-kagaku.sub.jp/battery.htm

負極 Zn → Zn2+ + 2e
正極 2H+ + 2e → H2

上記の反応が起こり、負極で亜鉛Znが亜鉛イオンZn2+になって電子e-が放出され、導線を通って正極についた電子e-を希硫酸中の水素イオンH+が受け取って水素H2が発生します。

ボルタ電池における希硫酸を「電解液」といいますが、今回の特許では希硫酸ではなく、なんと「体内の消化器内容物」を電解液に使ってしまっています。
小型化・軽量化が求められる医療用カプセルだから、体内にもともとあるものを発電に使ってしまえ!という発想なんですね。

さて実はここまでは公知技術で、今回の特許の新しい点はというと、電極材料とその配置を工夫した点です。

負極に「両性元素」を使う

今回の特許の実施例では、負極の材料として「アルミニウム」を使っています。
アルミニウムは「両性元素」であり、酸にも塩基にも水素を発生して溶けるという特徴を持っています。

塩酸との反応:2Al+6HCl→2AlCl3+3H2
水酸化ナトリウムNaOH水溶液との反応:2Al+2NaOH+6H2O→2Na[Al(OH)4]+3H2

これが何を意味するかというと、酸性下(胃など)と塩基性下(十二指腸など)両方で反応してくれるということです。
つまり従来の技術では胃などの酸性下での使用に限られていたのが、幅広い領域で使えるようになったのですね。

ちなみに代表的な両性元素はAl,Zn,Sn,Pb(「ああすんなり」)ですので、元祖ボルタ電池の負極である亜鉛Znも両性元素ですが、人体に有害でないことに加え、廃棄が楽(亜鉛は一般ごみとして廃棄できない)という点からアルミニウムを選定したようです。

電極をカプセル外壁に配置し、分極を防ぐ

さらに、ボルタ電池特有の問題として、正極で発生する水素H2によって水素イオンH+がブロックされて起電力が下がるという「分極」があるのですが、下図(カプセルを真ん中で切った断面)の2,3の位置、つまりカプセル外壁面に電極を配置することで、カプセルが体内を流下するとともに発生した水素が後ろに流れるので電極付近にたまることがなく、分極の問題を解決することができます。

まとめ

今回の特許のポイントは
①体内の消化器内容物を電解液とするボルタ電池
②負極が両性元素であるアルミニウム
③カプセル外壁面の電極で分極を防止

でした。

確かに言われてみれば(マトリックスでも描写されたように)人間の体内にも電解質はありますが、人体を使った発電を最初に思いついた人はすごいですね~。
また、カメラメーカーのオリンパスが医療用カプセルを作っているのにも驚きました。考えてみればカメラは画像処理やフィルム、現像液など医療に転用できそうな技術がたくさんありますね。
また類似特許を読んでみたいと思います。

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