こんにちは。
教科書で学習した内容が実際に使われているのを見るとちょっと嬉しいですよね。
化学系の特許(特開2007-292719)を読んでいた時に、教科書で見た酸化還元反応が出てきました。どのように使われているのか、その内容をまとめてみたいと思います。
酸化・還元と酸化数
酸化・還元には多義的な定義がありました。
酸素 | 水素 | 電子 | 酸化数 | |
酸化 | 得る | 失う | 失う | 増加 |
還元 | 失う | 得る | 得る | 減少 |
この酸化・還元を考える代表例としてよく使われるのが「過マンガン酸カリウムKMnO4」と「過酸化水素H2O2」です。
マンガンの酸化数は0(Mn単体)、+2(MnO)、+4(MnO2)、+7(KMnO4)
酸素の酸化数は0(O2)、-1(H2O2)、-2(H2O)
というように段階的に変化するので、酸化数の変化による酸化還元を考えやすいのですね。
(酸化数についてはこちらがわかりやすいです。)
ではこの代表的なペアが実際にどのような状況で使われているのか見てみます。
COD分析特許
上記特許の発明の名称は「COD分析装置及びCOD分析方法」です。
COD分析とは 排水中の還元性有機物(≒汚染物質)を、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤で酸化させ、それに要する酸化剤の量(Chemical Oxygen Demand 化学的酸素要求量)を測定するもので、海などに放流していいかどうかの環境基準として設定されています。(詳しくはこちら)
COD試験をパスするために、あらかじめ排水中の還元性有機物を除去(酸化)して水質を改善するのですが、それに使われるのが次亜塩素酸ナトリウムNaClOや過酸化水素H2O2です。
過酸化水素では以下の反応が起こります。
H2O2 + 2e- →2OH- (溶液が中性・塩基性の場合)
H2O2 + 2H+ +2e- →2H2O (溶液が酸性の場合)
このときの過酸化水素は酸化剤としてはたらいているので、自身は電子e-を受け取って還元されていますね。

酸性条件下であるというのは左辺でH+と反応していることでわかります。
しかし、ここで問題が生じます。
排水中に過酸化水素が残った状態で、過マンガン酸カリウムでCOD試験をするとどうなるでしょうか?
過酸化水素は、さきほどは酸化剤として使われましたが、過マンガン酸カリウムのように強力な酸化作剤が相手の場合は還元剤としてはたらきます。
2MnO4- + 5H2O2 + 6H+ → 2Mn2+ + 5O2 + 8H2O (COD試験は酸性下で行う)
Mnの酸化数の変化は、+7(MnO4-)→+2(Mn2+)と減少しているのでMnは還元された=酸化剤としてはたらいた
Oの酸化数はの変化は-1(H2O2)→0(O2)と増加しているのでOは酸化された=還元剤としてはたらいた
と確認できます。
繰り返しになりますが、COD試験は排水中の還元性有機物を過マンガン酸カリウムなどの酸化剤で酸化させ、それに要する酸化剤の量を測定するのでした。
しかし上記の反応で過酸化水素が還元剤としてはたらいてしまうと、過酸化水素がCODとして検出され、CODの値を引き上げてしまいます。
正確にCOD分析ができないのは困る、というのがこの特許における課題であり、その解決策は「COD値に影響を与える酸化性物質(次亜塩素酸ナトリウムNaClO、過酸化水素H2O2など)を亜硫酸イオンで分解し、その後亜硫酸イオンを硫酸溶液で分解してからCOD分析する」というものです。
酸化性物質を分解するのはいいのですが、亜硫酸イオンは亜硫酸イオンでCOD値に影響を与えるので、それも分解する必要があるのですね。
まとめ
学習した内容が実際に出てくると励みになりますね。
明細書を読むと、最先端の技術である特許も化学・物理の基礎の上に成り立っていることが実感できます。これからも基礎を確認しながら明細書を読んでいきたいと思います。
コメント