【文系女子が教える化学】フリーデル・クラフツ反応で美白成分を生成する(資生堂特許から)

文系女子が教える化学

4-イソブチルレゾルシノール生成反応を追ってみる

こんにちは。
ルイス酸」で検索した特許の中に、資生堂による「水中油型乳化組成物」の特許(特開2014-133737)がありました。
毎日使う化粧品(基礎化粧品)はやはり身近なものです。
特に資生堂の化粧品はよく使っていますので、どんな研究がされているのかな?と興味を持って読んでみました。

その中で、発明の本筋からは外れるのですが、美白剤(気になる!!)である「4-イソブチルレゾルシノール」の生成方法について以下の記載がありました。

”美白剤として、4-アルキルレゾルシノールおよび/またはその塩、あるいは4-アルキルレゾルシノール誘導体および/またはその塩を好適に配合することができる。4-アルキルレゾルシノールの具体例としては、4-イソブチルレゾルシノールが挙げられ(特許文献4)、例えば以下の方法により製造することができる。
1,3-ジヒドロキシベンゼンに対し、飽和カルボン酸または飽和カルボン酸ハロゲン化物を、クロロホルム、ジクロロメタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を溶媒として、塩化亜鉛または塩化アルミニウム等のルイス酸存在下で反応(フリーデル・クラフツ反応)させる。その後、さらに、亜鉛アマルガム/塩酸で還元することにより、4-イソブチルレゾルシノールを得ることができる。”

特開2014-133737

この美白剤(4-イソブチルレゾルシノール)生成の反応を追ってみます。

生成前後の物質を確認

まず、4-イソブチルレゾルシノールを検索するとこのような構造でした。

出典:https://www.cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=12554

「美白剤」ではなく「酸化防止剤」となっていますね。 これについては後述します。

次に生成前の物質です。

”例えば以下の方法により製造することができる。
1,3-ジヒドロキシベンゼンに対し、”

ベンゼンの1,3位にヒドロキシ基がついているので、
このような構造になります。

さきほどの4-イソブチルレゾルシノールから炭化水素基(イソブチル基)をとったものですね。
これを別名レゾルシノールと言うそうです。
レゾルシノールの4位にイソブチル基がついているので、4-イソブチルレゾルシノールというのですね。

”飽和カルボン酸または飽和カルボン酸ハロゲン化物を、”

カルボン酸はこちらの構造です。

飽和カルボン酸なので、Rは単結合のみからなる炭化水素基ですね。
飽和カルボン酸ハロゲン化物はHがハロゲン元素に置き換わったものです。
ここでは一番下の物質で考えます。(先取り感が満々ですね!)

フリーデル・クラフツ反応

”クロロホルム、ジクロロメタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を溶媒として、
塩化亜鉛または塩化アルミニウム等のルイス酸存在下で
反応(フリーデル・クラフツ反応)させる。”

ようやくルイス酸の登場です。
親切に(フリーデル・クラフツ反応)と書いてくれているので、調べてみるとこのような反応でした。

出典:wikipedia


上と下どちらの反応のことも指すようですが、今回はカルボン酸ハロゲン化物なので下の方の反応ですね。
これで1,3-ジヒドロキシベンゼンにカルボン酸基をくっつけられることがわかりましたが、なぜこのような反応が起きるのか?を詳しく見てみます。

①ルイス酸がR-ClのClを引っぱり、配位結合する
ルイス酸の特徴は、空軌道を持つのですごく電子を欲しがっていることでした。
このルイス酸触媒(ここでは塩化アルミニウムAlCl3)が非共有電子対を持っている(ルイス塩基である)カルボン酸ハロゲン化物のClに配位結合します。
これによって、
②カルボン酸ハロゲン化物の電子がカルボニル炭素は+、Clは-へと大きく偏る
③+に偏ったカルボニル炭素がベンゼン環のπ電子と反応し、付加する
④中間体が生成される

以上の反応が起こります。
完了か?と思いきや、まだカルボン酸基が付加しているだけで、置換されていません。


カルボン酸基が付加することによって、ベンゼン環の安定性(「芳香族性」=π電子の非局在化)が失われ、不安定になっています。そのため、
⑤芳香族性を回復するため、プロトンH+が脱離する(置換となる)

が起こります。

これでフリーデル・クラフツ反応が完了しました。
次へ進みます。

クレメンゼン還元

”その後、さらに、亜鉛アマルガム/塩酸で還元することにより、
4-イソブチルレゾルシノールを得ることができる”

ここが意外とわかりにくいです。
「亜鉛アマルガム/塩酸」を「亜鉛アマルガムまたは塩酸」と読んで、得体の知れない亜鉛アマルガムは無視して塩酸による還元を考えたのですが、どうもうまく最終物質が作れない。

なぜだ…と思って「亜鉛アマルガム」を検索すると、「亜鉛アマルガムを用いて塩酸などの強酸性の溶媒中で」行う「クレメンゼン還元」というものがあるのですね。

つまり「亜鉛アマルガムまたは塩酸」ではなく「亜鉛アマルガムおよび塩酸」が正解でした。

クレメンゼン還元は以下の反応ですので、これがわかれば簡単ですね。

出典:

無事に4-イソブチルレゾルシノールを得ることができました。

ちなみにクレメンゼン還元は「亜鉛アマルガムの表面で起こっている反応のため反応機構の詳細は明らかではない」そうです。
「原理はわからんけどこうすればうまくいく」ってことですね。
当たり前かもしれませんが、化学の世界でもこういうやり方をすることもあるんですね~。

補足:美白剤のはたらき

冒頭で、4-イソブチルレゾルシノールは酸化剤として使われていると言いました。
実は美白剤のはたらきは、大きく分けて2つあるみたいです。

①チロシナーゼ阻害剤
紫外線を浴びることで活性化し、メラニンをつくり出す酵素であるチロシナーゼの活性を阻害する

②抗酸化活性
色素沈着の最大の要因である、紫外線や老化による皮膚細胞の酸化スピードを抑える

酸化剤としてのはたらきはこのうち②ですね。
4-イソブチルレゾルシノールを含む、多くの4-アルキルレゾルシノールはこの①②両方のはたらきをもつため、メラニン生成抑制効果に優れているそうです。

今度から美白剤の成分も考慮して化粧品を選んでみるのもいいかもしれません!

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