こんにちは。
岡野の化学で「溶解度積」を学習した後に関連特許を検索したところ、「空気清浄化装置」の特許(特開2009-233074)があったので読んでみると、冒頭近くにこんな記載がありました。
特に病院、介護老人ホームなどの施設内において、特定のウイルスの感染症が流行し、それに対する早急な対処策が求められている。これらの背景から、特にこれらの特定のウイルスに対する高い除去機能と、広範囲の菌や黴に対処できる機能を併せ持った処理部材の開発が望まれている。
まさに現在の状況ですね!これは新型コロナウイルスに対する製品への適用も期待できそうです。 それでは、どのような工夫でこの効果を実現しているかを見ていきます。
特許のポイント

フィルターの構造(鶏卵抗体と無機銀塩)
今回の特許最大のポイントは、フィルター(有害物質除去材)に「鶏卵抗体」と「無機銀塩」という二種類の物質を付着させていることです。
役割分担で言うと、鶏卵抗体が「攻め」で無機銀塩が「守り」という感じです。
鶏卵抗体:特定のウイルス・細菌に対する強力な効果
「鶏卵抗体」とは、鶏にウイルスや細菌を投与して、その鶏が産んだ卵から免疫をとったもので特定のウイルス・細菌には強力な効果を発揮するものです。(卵抗体についてくわしくはこちら)
抗体については以下の記載があります。
前記抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス菌、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌などを挙げることができる。カビとしては、例えば、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムなどを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン、ネコアレルゲンなどを挙げることができる。
新型コロナウイルス抗体を使ったものも今後販売される可能性がありますね。
無機銀塩:フィルター抗菌作用(抗体に細菌・カビを繁殖させない)
「無機銀塩」とは、ここでは銀とハロゲンの化合物を指します。
ハロゲンとは周期表の第17族元素で、代表的なものはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素です。
無機塩銀が溶けて生成した銀イオンが抗菌効果を持つのですね。
さらに、この特許ではただの無機銀塩ではなく、
「pH7、25℃における溶解度積の逆数の対数値(pKsp)が8~14である無機銀塩」と限定しています。
この数値の限定にはどういう意味があるのかを詳しく見てみます。
溶解度積とは?
溶解度積とは、簡単に言うと「特定の物質の溶けやすさを表す数値」で、
具体的には「難溶性塩の飽和溶液中における、陽イオン濃度と陰イオン濃度の積」を表します。
つまり、「水に溶けにくい化合物(塩)がこれ以上溶けないというところまで溶液に溶けたときの、溶けている陽イオン濃度と陰イオン濃度を掛け算した値」です。
溶けているイオンの濃度を掛けた値なので、溶解度積が大きいほどその物質は溶けやすいということになります。
また、「溶解度積の逆数の対数値(pKsp)」はその逆数を考えるので、
「pKspが小さい(溶解度積が大きい)→溶けやすい、pKspが大きい(溶解度積が小さい)→溶けにくい」ということになります。
今回は「pKspが8~14である無機銀塩」と範囲が限定されていますので、「溶けすぎても溶けなさすぎてもダメ」ということが予想できます。
ウイルスの不活性化効率および抗菌力(試験結果)は以下のようになっています。

「ウイルスの不活性化効率」ではフッ化銀の、「抗菌力」ではヨウ化銀の結果が悪いですね。この理由については以下の記載があります。
フッ化銀は易溶性銀塩で溶解度が高く、電離・銀イオンによる抗体の破壊が発生し抗体による不活化効率が下がっていると考えた。ヨウ化銀では、pKspが高く、銀イオンの徐放性が抑制されて抗菌効果が減少していると考えた。
つまり、フッ化銀は溶けすぎて銀イオンにより抗体が破壊されてしまい、逆にヨウ化銀は溶けなさすぎて銀イオンが少なく抗菌効果が薄かったのですね。
「pKspが8~14である無機銀塩」という限定には、フィルターが最大の効果を発揮する銀イオン濃度を持つという意味があったのでした。
光触媒フィルターでさらに効果的(実施例)
特許の実施例では、上記フィルターに加え、光触媒フィルター(+光触媒を活性化させる光照射部)も設置されています。
抗体は特定のウイルスや細菌にしか効かないので、ウイルス、細菌、花粉、悪臭…と汎用性の高い光触媒を併用することで、さらに効果を高めていると考えられます。 (光触媒について詳しくはこちら)
まとめ
ノート見開きまとめ

空気清浄機はネットでも売切れが続出していますが、今後さらに需要が高まりそうですね。 メーカー各社さらに研究を重ねていると思われますので、今後も技術に注目していきたいです。
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